時めく極品大納言

主にゲームの感想置き場 不定期

スロウ・ダメージ 斑目感想

以下ネタバレ。真相ルートのプレイが前提の箇所は【】でくくってます。

 

 


相手の問題に踏み込んだり巻き込まれたりする形で進行したタク・レイルートから一転し、斑目ルートではトワ自身が悩んだり不安な状態に置かれます。解決すべき問題の主体が相手だった時は見えてこなかったトワの過去・内面に触れることになるため真相を担う藤枝ルートに繋がるとともに、【過去の因縁を清算し罪を背負ったまま決別するという真相とは正反対】の結末を迎えるルートです。

開幕直後に皆の態度がどこかおかしいと思ったらeuphoria終わった後に生稲さんが自殺していたことが判明して、今までとはちがうぞ~と言われている気分になります。原因は生稲さん心理パートで「心臓を刺される」を提示したためですがシステム的にはルート分岐、シナリオ的には榊が摩耶から言われた言葉を使うことでトワが無意識に摩耶へ近づいたからという理由を持たせているのが芸術ポイント高いです。私はこういうのに弱い。

ルートが始まっても当の本人は姿を見せず、幽霊の噂やライターなど存在を匂わせる程度。それに触発されたトワが不安定になって右目に痛みを感じたり夜寝ている間に抗争の思い出が残る場所であるデスマッチエリアに夢遊病のごとく行ってしまう。
ここがMadエンドでも心が揺れることがなく思うままに行動していたそれまでとは異なり、トワが翻弄される側に回る構造になっているのがうまい。怪しい薬を打たれても銃を向けられてもうろたえず飄々としていて、ある意味どんな状況でも精神面では一番安定していたトワが弱々しく見えて、一体どうなるんだ・・・・・・とこっちまでハラハラしました。

その後タクが誘拐され、謎の人物から誰にも言わず一人で来いと呼び出しを受けたトワが攫われます。もちろん斑目の仕業です。
隠れ家で目覚めたトワの顔を間近でぺたぺた触ってたのは右目の具合を確認してたのかなあ。かわいい。
再会の挨拶が済んで斑目が出ていき、トワは脱出しようと探索したり瓦礫を首輪の内側でのこぎりのように動かして摩擦で外そうとしたりします。ここの天井から首輪が伸びているのと洗面所の背景のおかげで状況が視覚的にわかりやすくなってありがたい。リップシンクやバリエーション豊かな顔グラフィック差分など、なくても成立するけどあると没入感が高まる演出はいいものです。テンションの上がり具合が違う。
結局首輪は外れず戻ってきた斑目に鉄拳制裁を受けてしまいます。舌を噛み切ろうとしたトワに気づき阻止するところがこう・・・・・・言葉がなくても通じ合える関係だと実例を提示されたようできゅんときました。

ハンストを敢行するトワにあきれた斑目は彼ご所望の煙草と酒・パンを無理矢理与え、それが呼び水になったのかトワはかつてないほどの飢餓感に襲われます。
しかしここでも強情さが発揮され施しを受けたくない気持ちが勝ちます。びっくりするほど意思の力がつよい。この時点で4日ほどまともな食事をしていないはずなのに・・・・・・。
斑目の言う「元に戻る」の中には、過去ともに過ごしていた理由のほかにこうしたい、あれが欲しいという欲求や欲望を取り戻すことも含まれていそう。今のトワは生きてはいるけどそれは死んでいないというだけで、主体性がまっっったくありません。生活は乱れに乱れ、いつ死んでもいいと思っています。対して回想の中や人から伝え聞くトワは自由でやりたいことをやりたいようにしていた感じで、その様子は斑目と似ています。あっさりお酒と煙草をくれたことに違和感があったのですが、「元に戻る」ことにそういう意味も含まれているのなら、トワの望みを叶えて欲望を喚起させる方向にアプローチを変えたと考えれば納得。
ここまで書いてからレイルートで初めて会ったときのトワは信念を曲げず、こうと決めたら貫き通す男らしさがあると言っていたのを思い出しました。すでに答えは得ていたのだ・・・・・・

話は変わりますが、トワが元々性に奔放という設定はよいですね。攻略対象と過去に関係を持っていても不自然ではなくなる、妄想の余地も広がる。あと暴力や暴力的な性行為にさらされても本人が全然堪えてないので心苦しさが軽減される。

なんやかんやあって加賀を殺したのは遠野であり、右目は撃たれそうになった斑目をかばったことが原因だったと思い出します。過去の再演がトリガーとなって記憶を取り戻すのは王道ですね。タクが遠野に撃たれそうになった時、レイが暴行パーティで更に殴られそうになった時、藤枝が【斑目と対峙した】時、どのルートでも一度はトワがかばうシチュエーションがあります。生きる意思も死ぬ意思も希薄なトワが誰かをかばうこと自体、その人を特別に思っていることの証左ってことでしょうか。【摩耶から言葉で人を意のままに動かし支配する方法を教えられてきたトワが、メイから教わった体を張って大切な人を助けることを実行するのは過去からの脱却と自立のように思える。すべてのIFで同じ事象が起こるのは、真相ルートだけが"正解"なのではなくどの未来を選んでも正しいんだよってメッセージな気がします。


そして記憶とともに手加減なしの暴力でしか得られない生の実感に気づいてしまったトワはタクやレイ、クリニック・ルーストの人たちがいたそれまでのひだまりのような日常にはもう戻れないと斑目の元に戻ります。小太郎・マユ・エイジが協力していた事実も明らかとなり、物語は元凶である遠野と榊に復讐する方向へ進みます。

 

ここで2回目の心理パートVS斑目
これまでは相手の秘められた本音や気づいていない心を暴くことが目的でしたが、斑目は(少なくともトワ相手には)隠すようなことなどなにもないので、反応が悪いことに焦って探ろうとすればするほど斑目の心が覚めていきます。具体的には未来を尋ね、他人の言葉(インスピレーション)で語り、迷うと砂が減り傷が開いていく。
これが共通パートやタク・レイルートで失敗すると興味を失い投げやりになってゲームオーバーになるトワとの対比になっていてよき。
さらに感情の起伏が少ないため心理的距離が遠いと感じていたトワが、ここにきて「同じやり方をしているのに斑目の心を開くことができずに焦る」という同じ感情体験を共有することで一気に身近になったような気がします。

失敗するとMadエンドへ。
榊と遠野を殺して鷹郷組を乗っ取った斑目に命じられて殺しをするようになったということは、斑目という本番のための練習をさせてあげてるんですね。
なんだかんだで胸の傷を切るときも視線で問いかけてるし、自分のしたいことをしているように見えて実はトワの求めることを叶えるために行動しているように思えます。トワも無意識に斑目が望んでいることを感じ取ってるから殺そうとしてるんだったらいいな。
スタッフロール直前に入る独白でも「俺を殺そうとするお前がたまらなく愛しいよ」と言っていますし、外側から見えている以上にトワのこと大事にしているんだなーと思える結末でした。


成功するとeuphoriaエンドへ。
カジノに潜入して直接遠野に宣戦布告するのは逃げ道を塞ぐためとしても、わざわざトワが直接行く意味がトワはもうこちら側だと見せつけるためくらいしか思いつかない。宝物をみせびらかす子供みたいでかわいいなぁまったく。あとみんなの前では馬子にも衣装とか言ってたのに二人の時は似合ってるって言うのずるくないですか。彼氏かよ。彼氏だったわ。

斑目が遠野と一騎打ちをして撃ち殺すシーンは、タクが一方的に銃を向けながらも遠野に向けては発砲せずに生かした場面との対比になっています。
普段は徒手空拳なのに銃を使っているのは加賀の命とトワの右目を銃弾で奪われたから、報いを受けさせるなら同じ方法でということですね。
ところで【榊や遠野を明確な意思をもって直接的に殺害するのがこのルートの特徴ですが、これはトワにとっての重大事項である摩耶との決別が、斑目と歩む道においては復讐を完遂することにあるからではないかと思います。タクルートは過去を忘却し今の自分とは無関係であると切り離すこと、レイルートではレイに父親との関係をはっきりさせて気持ちの区切りをつけることがそれに相当するかと。「復讐するは我にあり」に逆らって人が自らの手で過去を断ち切ることこそが、斑目ルートにおける摩耶との決別になる・・・・・・んじゃないのかな~


榊の死はあっさり流されてしまったので、実は死んでなくてもう一波乱ある展開では!?とざわめきましたがそんなことはありませんでした。
すべてが終わった後、国外に出て闘技場で毎週のように戦いながら仲睦まじく暮らしてる二人は幸せなキスをして終了!ハッピーエンド!完!
専用曲のKeep me aliveがいつか殺される日を待っているMadエンドと対照的でまたいい。
aliveを英英辞典で引くと①not dead ②still existing ③cheerfulと出てきます。
ただ惰性で生きているのではなく生命力にあふれ希望に満ちあふれている状態ということですね。共通のトワと正反対だぁ
トワのことを飼い主がいなくても生きてはいけるが痩せさらばえていく様が猫のようだと言っていましたが、きっとそれは自分に向けた言葉でもあるのでしょう。つまり君がいなくても死にはしないけど、いれば幸せになれるってことですね。頼むから一生一緒にいてくれ。
曲中でも"Stay here with me Come on”って4回も言ってます。歌詞カードには1回しか書いてないのに。こんなのしんじゃう。
後で気づいたのですがタクはトワのこと大きく括れば犬みたいっていってますね。こんなとこまで対照的~

あと全員共通で各エンドの前にお相手の独白が入って、その一部を実際に伝えたりするのですが斑目はほぼそのまんまをトワに伝えています。つ、つよい・・・・・・隠し事がない男はいつでも直球ストレート。本当に頭の中で考えていることと口に出すことが変わらないんだな。そしてこのエンドのトワはそれがわかっているから軽く同意するだけで終わる。行動と直感でわかり合えるペアに4倍弱点を持つ私にとっては一撃で瀕死状態ですありがとうございました。

 

おまけ:タクとあらゆる場面で対比が激しいなと思ったので並べてみた。
・昔(摩耶の記憶)を忘れさせる/昔(鷹郷組の記憶)を思い出させる
・トワに対して隠しごとをする/しない
・遠野に軟禁される/遠野のところに乗り込む
・遠野に与えられて縛られる/遠野に奪われ引き離される
金銭的支援を受ける代わりに後ろ暗い仕事をさせられて抜け出せなくなってるタクと抗争で加賀の命とトワの右目を持っていかれて自身も撃たれ、離れることを余儀なくされた斑目
・遠野を撃たない/遠野を射殺する
・煙の色がオレンジ/紺(色相環で相対する位置、補色)
タクの煙が途中で赤や赤紫に変化するのに対して、斑目は変わらない。
・一緒にいるとトワが安心する/退屈しない
どちらも言葉はポジティブだけど意味合いは正反対
・トワに眼帯をつける/はずさせる
縫合の痕以外ほぼ変わらない他の傷と異なり、右目はトワの体の中でも不可逆に欠損している部分。斑目的には自分をかばってできた傷なのでむしろ見せつけたいのかもしれない。
・トワを犬にたとえる/猫にたとえる
・Madエンドで同じ幻覚を見てる/euphoriaエンドで同じ感覚を共有している